今日は山羊のメイさんを紹介します。
メイ。9歳、2009年春。
2000年の春、5月の風に乗って突然に彼女はやってきた。艶やかな黒に白が美しい。
私が小さい頃には身近な存在だった。いつの間にか目にすることがなくなって、いまどき山羊を飼うなどはかなりの変わり者に見えるらしい。山羊を飼っている話をすると、大概の場合喜んで興味を持って頂ける。それに私自信を理解していただく一助にもなる。「そういえばなんとなく山羊に似ていますね」まで話は進む。中に「それ食べるんですか?」と聞かれることもある。この人の場合説明が難しく正しく伝わらない。
父が残してくれた山林や田畑があって、絵を描きたいと思った私は残念ながら稲作の方法を身に付けることが出来なかった。田畑の雑草の管理に途方にくれていた時(草刈り機で刈ること自体は大好きなのだが)、新聞の記事で山羊が雑草の管理が出来るらしいことを知った。知り合いを頼って隣の大和町のHさんからお譲りいただけることになり、ご夫妻でメイを連れてきていただいた。初対面のメイに私共が大喜びをしている時に、Hさんの奥様がそっと目頭を抑えていらっしゃったのを忘れることが出来ない。
不純なこの動機はすぐに消えて、その日から限りなく人間に近い(多くの場合それ以上の)共同生活者になった。やがて子供が生まれた。山羊の乳房は二つで人間とおなじと思っていたらいきなり三つ子が生まれた。動物の子供は必ずそうだが子ヤギは特にかわいい。
しばらくの間格闘してみたが、やはり4匹では生活の設計が成り立たない。覚悟が足りなかったと忸怩たる思いは今もあるがHさんに引き取っていただくことになってしまった。その日今度は家内が泣いていた。
ちなみに家内は思いのたけを飼い方に籠める人で、その工夫が日々の生活の方法になる。時々制作が疎かになる傾向。
ところで山羊は何年生きるのか。Hさんにお尋ねしたことはないが、
このあと私共とはかなりいい勝負になるかも知れない。
次回は愛犬『(俵屋)宗達』のはなし。乞うご期待。
本日より「一会」ブログを開設します。
これから様々な情報を発信していきます。
ご期待ください!
とりあえず入野の風送ります。
5月のはじめ、一斉に芽吹く新しい芽がほぼ出揃う瞬間がある。1年に1度この1瞬だけなんとも言えない摩訶不思議な緑の空間になる。都合の良いことにこの時期は世の中が休みの時なので、どうしてもゆっくりと外で食べたくなる。アトリエの前にタイヤと板を持ち出してクロス、後はいつも食べるものを置いて準備完了。新鮮。感動。
大切な木陰を作ってくれるのは25年間ですっかり大きくなった白木蓮の樹。娘が1歳か2歳の頃に、忠海の祭りの植木市で求めたものだ。幹が2センチほど、1メートルにも満たなかった苗が、直径40センチの大木になった。すざましい成長であるが大切なモチーフにもなった。
この楽しい食卓もたった3週間ほどで終わる。突然にこの木蓮の若葉に得体の知れない幼虫が住み付く。昼夜を問わず無数の幼虫が食べ続ける音と、落ち続ける糞の音に慣れて楽しむことができるまでには数年かかった。大木のほぼ半分を食い尽くした頃に全員が突然と樹を降りて地面を西に向かう。オームの大移動の様子。決して人知をもって解せない。蛾なのか蝶なのかいまだに判らない。半分裸になって残された木蓮の枝は自ら養生を始める。ひと月をかけて、食べつくされたすべての葉を必死で新たに揃える。これも人知をはるかに超える。かくて5月の入野に訪れる不思議な緑の風は今はまぼろし・・・。